相続放棄と相続分譲渡の違い
遺産分割・遺留分
1 はじめに
本コラムでは、相続放棄と相続分譲渡の違いを説明します。
2 相続放棄の説明と法的効果
相続放棄とは、被相続人の残した相続財産(プラス財産およびマイナス財産)の一切を相続せず、相続人としての地位を自ら放棄する行為をいいます。この手続きは私的な合意ではなく、必ず家庭裁判所に対して「申述」を行い、受理されることが必要となります(民法938条)。
相続放棄をした場合、民法第939条により、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみな」されます。これにより、相続放棄をした者は相続人としての権利義務一切を引き継ぎません。
3 相続分譲渡の説明と法的効果
一方、相続分譲渡とは、未分割の遺産全体に対して共同相続人が有する権利(相続分)を、他の共同相続人または第三者へ移転させる契約行為を意味します。相続分譲渡は当事者間の契約行為であるため、家庭裁判所への申述といった方式は必要とされません。
4 相続債務の扱いに関する違い
相続放棄を選択した場合、民法第939条により、放棄者は相続人としての地位を完全に喪失します。これにより、その後の遺産分割協議への関与や、相続権を引き継ぐ人の指定を行うこともできなくなります。一方で、相続分譲渡は、自己の持つ持分を移転させる行為であって、相続人としての地位自体は失われません。
このことは、相続財産に負債が含まれる場合に、債務の支払いを免れることになるかに影響を与えます。相続放棄は、前述の通り、初めから相続人ではなかったものとみなされるため、債務の返済義務からも完全に免れることができます。マイナスの財産(借金等)がプラスの財産を上回る場合は、負債を免れるためには、相続放棄をする必要があります。
一方、譲渡人が相続人としての地位を維持するため、債権者に対する関係において、元の相続人として債務を弁済する義務が残ってしまいます。
4 後順位相続人、他の相続人への影響
相続放棄をすると次順位の相続人へ権利が移行する場合があります。
相続放棄が成立すると、放棄者は初めから相続人ではなかったとみなされるため、相続権は次順位の者に移行します。これにより、予期せぬ親族が突然債務を負うリスクが生じるため、相続放棄を行う際は、後順位の者への影響も考慮する必要がある場合があります。これに対し、相続分譲渡は、相続人としての地位自体を動かすものではないため、次順位の者に相続権が移行することはありません。
また、相続放棄をした場合、ご自身は相続人ではなかったことになるので、相続財産については、ご自身を除いた他の相続人で法定相続分に応じて案分されます。一方、相続分譲渡をした場合は、ご自身の相続分を誰に譲渡するか選択することが可能です。
6 まとめ
相続放棄は、相続開始を知った時から原則3か月以内に家庭裁判所へ申述を行うという公的な手続きを要します。
相続放棄か相続分譲渡をするべきか迷った際には弁護士にご相談ください。