相続人の一部が生死不明の場合の遺産分割の方法
遺産分割・遺留分
1 遺産分割とは
遺産分割とは,被相続人が亡くなり,相続が開始し,相続財産が複数人の相続人の共有となった場合に,これらの共同相続人の相続分と実情に応じて,これを総合的に分配する手続を言います。遺産分割の協議は,相続人全員の同意がなければ成立しないため,相続人のうち一部に,生死不明の人がいる場合には,そのままでは遺産分割を進めることができません。この場合の対処方法として,①生死不明者が生存していることを前提として,「不在者財産管理人」を選任する方法と,②生死不明者について,「失踪宣告」を受け,同人を死亡したものとみなす方法があります。
2 不在者財産管理人制度
相続人の1人である不在者が,財産管理人を置かないで行方不明になったときは,他の相続人などの利害関係人等が,家庭裁判所に対し,不在者の財産管理について,管理人を選任するなど必要な処分を命ずることの申立てを行うことができ(民法25条1項前段,家事事件手続法別表第1の55項),これに基づき,家庭裁判所は,財産管理人を選任するなどの処分を行います(財産管理人には,弁護士が就任することが多いです)。
財産管理人が選任された後,その財産管理人と他の相続人との間で遺産分割協議を行うことになりますが,財産管理人が遺産分割協議に参加し,協議を成立させるためには,別途,財産管理人において,家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法28条)。この場合,家庭裁判所は,原則として,不在者が,遺産分割により,法定相続分相当額の遺産を確保できることを,許可の条件としているようです。
3 失踪宣告制度
失踪宣告には,「普通失踪」と「特別失踪」とがあります。
「普通失踪」は,不在者の生死が7年間明らかでないとき(生存の証明も,死亡の証明もできない場合を言います)に,利害関係人の請求によって,家庭裁判所が失踪宣告をなして,7年間の満了時に,不在者が死亡したものとみなされるものです(民法30条1項,31条)。
「特別失踪」は,戦地に臨んだ者,沈没した船舶の在船者など死亡の原因となる危難に遭遇した者の生死が,戦争が終了した後,船舶の沈没した後,その他危難が去った後1年間明らかでないときに,利害関係人の請求により,家庭裁判所が失踪宣告を行い,危難の去った時に死亡したものとみなされるものです(民法30条2項,31条)。
家庭裁判所は,普通失踪の場合は3ヶ月以上,特別失踪の場合は1ヶ月以上の期間の公告を行い,この期間に不在者が現れなかったことを確認の上,失踪宣告の審判を行います(家事事件手続法148条3項)。
失踪宣告制度を利用した場合,失踪宣告の確定後,失踪者に相続人がいる場合には,その相続人が加わって遺産分割協議を行うこととなります。
弁護士: 玄政和