「相続させる」旨の遺言(特定の遺産を「相続させる」場合)

遺言作成

1 はじめに

本稿では、遺言実務においてよく見られる「相続させる」旨の遺言について解説いたします。

2 「相続させる」旨の遺言の解釈に関する判例

判例(最二小判平成3年4月19日・民集45巻4号477頁)は、相続人の一人に対して特定の遺産を「相続させる」旨の遺言について、「遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものである」としたうえで、以下のとおりの判示をしております。

  • 当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。

  • 被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。

  • したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ない

  • 遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。

3 「相続させる」旨の遺言の性質・効果

上記判例を要約すると、相続人の一人に対して特定の遺産を「相続させる」旨の遺言の性質、効果は、以下のとおりとなります。

  • 遺言書の記載上、遺贈であることが明らかであるか、又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、「相続させる」旨の遺言は、特定財産についての遺産分割の方法を定めたものである。
  • 「相続させる」旨の遺言により遺産分割の方法が指定された場合、当該遺産分割方法の指定は他の共同相続人も拘束し、これと異なる遺産分割を行うことはできない。
  • 「相続させる」旨の遺言により遺産分割の方法が指定された場合、特段の事情のない限り、何らの行為を介在することなく、被相続人の死亡時から当該遺産が当該相続人により承継されることになる。

以上のとおり、特定の遺産について「相続させる」旨の遺言が存在する場合、当該遺産は遺産分割協議の対象外となり、当然に特定の相続人に承継されることになります。
他方で、遺言書の他の記載から当該遺産を遺贈する趣旨であると解釈できる場合、その他の被相続人(遺言者)による遺産分割等に関する例外的な記載が存在する場合は、異なる帰結となります。
遺言の解釈が一義的にできるとはいい切れない場合は、弁護士に相談することを推奨いたします。

弁護士: 土井將