「死後離婚」と相続について
遺産分割・遺留分
~~ 「死後離婚」と相続について ~~
「死後離婚」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
自分の配偶者が亡くなった時に、仲が悪いなどの理由から、亡くなった配偶者の親族(民法上は「姻族」と呼ばれます。)との縁を切ることを望む方もおられるのではないでしょうか。
いくら仲が悪いといっても、法律上、3親等以内の親族(姻族)に対しては、同居している場合など一定の条件下において扶養・互助義務が生じることもありますので(民法730条、877条2項)、万が一にも上記の義務を負うことのないよう、また今後関わらなくて済むよう、何らかの手立てを講じておきたいと考えることは自然な心理です。
そのような場合に利用できる手続きとして用意されているのが、俗に「死後離婚」と呼ばれる制度になります。
この「死後離婚」とは、夫婦の一方の配偶者が亡くなった場合に、残された他方の配偶者が、亡くなった配偶者の親族(姻族)との関係を終了させるための手続です。
「死後離婚」の手続は簡易で、自治体窓口に、①配偶者の死亡を証明するための戸籍謄本と②姻族関係終了届を提出することで完了します。亡くなった配偶者の親族(姻族)の同意は不要で、手続完了後に親族(姻族)側に通知がいくということもありません。また、提出期限もありません。もっとも、「死後離婚」は、手続きが完了した後には取り消すことができなくなります。
そして、この「死後離婚」の手続を行うことで、以下の効果が生じます。
- 亡くなった配偶者の親族(姻族)との関係が終了し、上記の扶養・互助義務が課せられることはなくなる
- 亡くなった配偶者のお墓や仏壇を管理する「祭祀承継者」(配偶者が亡くなった場合、生存した他方配偶者が指定されることが多いです。)になりにくくなる。つまり、親族(姻族)のお墓や仏壇を引き取ったり法要を開いたりする必要がなくなる
このように、「親族(姻族)と縁を切りたい」との望みをかなえる「死後離婚」ですが、亡くなった配偶者の遺産の相続や遺族年金の受給にはどのような影響があるでしょうか。
この点については、「縁を切る」制度である以上、相続や遺族年金を受給する権利を失うようにも思えますが、結論としては、遺産の相続や遺族年金の受給には影響を及ぼすことはありません。
具体的には、「死後離婚」は、亡配偶者との関係を終了させるものではないので、相続との関係では、以下のような特徴を挙げることができます。
- 亡くなった配偶者の遺産は相続できる。(そのため、債務超過で相続したくない場合などは、別途相続放棄の手続が必要となる)
- 遺族年金を受け取ることができる
- 戸籍に「姻族関係終了」との記載がされるが、亡くなった配偶者の戸籍からは抜けない(そのため、婚姻前の氏に戻したい場合には復氏届を提出する必要がある)
このように、上記の効果と特徴だけ見ると、「死後離婚」は、配偶者としての相続に関係する権利は失わずに親族(姻族)との縁だけ切れる便利な手続のように見えます。
けれども、「死後離婚」をすることで、一方的に縁を切られた親族(姻族)との関係は当然に悪化し、
- 自分に何かあったときに、親族(姻族)を頼りにくくなる
- 亡くなった配偶者の墓参り、法要への参加が難しくなる(気まずくなる)
といったデメリットが生じることとなります。
ですので、上記の通り、一度手続してしまうと取り消すことができない制度であることからも、この制度を利用するかどうかは慎重に判断する必要があるでしょう。
弁護士: 原 萌野